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照りつける太陽はアスファルトを焦がし、蜃気楼が現れる。気温は既に30℃を越えている。相棒シェビーも俺の気持ちを知ってるかのように風を切りながらアスファルトの上を駆け抜けていく。今日までどれだけの人が夢を乗せてこの道を走ったのだろう?ゴールを見ないままこの道を降りた人もいるだろう。何を頼りに走ればいいのか?自分に問いかけてみる。しかし何度考えても答えは1つ。それは夢でしかない。人生という名の道も何処か似てるような気がする。人は決められた道を歩けるわけではない。自分の意志で道を選び自分の足で歩いていくしかない。かと言ってその先に必ず幸せが待ってるという約束もない。だからこそ時には迷い、時には悩んだりもする。それでも人は立ち上がり、また歩き始める。それは夢という強い味方を 人が見つけられるからだろう。俺は風に問いかけながら西の空を目指し、車を走らせた。
荒れ果てた大地を開拓し、長い年月をかけて人々は一本の道をつくった。もしかすると、その瞬間が夢の始まりなのかも知れない。また世界中のアーティストがこの道を通して夢を歌っている。俺にとってもアメリカ横断という旅は 生涯一度あるかどうかの掛けがえのない夢の時間になるだろう。この旅で出逢った街、出逢った人、数々の想い出を乗せて駆け抜けた夢の道を永遠のものにする為に、俺は歌を書き始めることにした。
クリントンの空も陽が沈むに連れて赤く染まっていく。俺は通り向かいのMOTEL"Trade Winds Countory in"<トレード・ウィンズ・カントリー・イン>にチェックインした。ここで驚くべきハプニングが俺を待っていた。あのエルヴィス・プレスリーがメンフィスからL.A.へ旅した際にプライベートで4度も使用した部屋に泊まることになったのだ。これには本当に驚いた。この場所を訪ねて旅したわけでもなく、偶然にもその部屋に巡り合ったのである。そして・・・更に運命にも似たようなことが重なった。 MOTELのオーナーであるウォルター・メイソン氏から俺はある事実を知った。エルヴィスの命日は皮肉にも8月16日。そう、俺の誕生日だったのだ。何か目に見えない力で引き合わされたような偶然の連続に俺は言葉が出なかった。
ルームナンバー215。俺はルームキーを差し込み、ゆっくりとドアノブを廻した。部屋の中には当時エルヴィスが使っていたままのベッドや家具が今も変わらず残されていた。俺はエルヴィスと時空を超えて同じ空間を共有することが不思議でもあり、うれしくもあった。思わず、俺はギターを持ち出し、クルー達と楽しい時間を過ごした。その後MOTEL前のレストランで夕食をとり、俺は一人部屋に戻ったがまだ眠れそうにない。いや、俺はあのベッドで本当に眠れるだろうか?自分自身に問いかけてみる。そんなことを考えるほど疲れた体とは裏腹に不思議と目が冴えてくる。俺は溜まった洗濯物を洗いにコインランドリーへ出掛けることにした。
25セントを入れ、汚れたTシャツと洗剤を投げ込む。ドアをロックすると、ランドリーマシーンは勢いよく音をたてて回り始めた。丸いガラスの向こうで泡を立てているTシャツを覗きながら俺はメロディを口ずさんでいた。どうやら曲ができそうだ。メロディは突然何処からともなく俺の下へやって来る。アメリカの空の下で 生まれたばかりのメロディを何度も頭の中でリフレインする。メロディは曲にとって命のようなもの。良いメロディはどんなアレンジをしてもうまく決まる。逆に楽器を片手にスリリングなコードを繋げても良いメロディが生まれるとは限らない。そして詩は俺にとってメッセージだ。メッセージが無ければ歌う必要もない。この2つがあってこそ俺の歌になる。この日、俺は夜遅くまでエルヴィスが愛したベッドの上で曲を書いた。そして・・・いつの間にか俺は深い眠りについていた。
服も着替えないまま寝てしまった俺は、窓から差し込む淡い光で目覚めた。ベッドの上に散らかした書きかけのスコアをギターケースに詰め込み、古いロードマップをめくる。今日は何処まで走れるだろう?クリントンの空は今日も青く晴れ渡っている。また熱い日になりそうだ・・・。身仕度をしながら俺はふとある計画を思いついた。いつの日か必ずこの街に・・・この部屋に帰って来よう。これは俺とエルヴィスの二人の約束だ。その日までエルヴィスが俺を忘れないように・・・。そして今日の日を二人が忘れないように・・・。俺はベッドの下に潜り込み、秘密の落書きを残した。
太陽も西の空に傾く頃、俺はオクラホマとテキサスの州境に近づいていた。やがて"Texola"<テキソーラ>と書かれたサインが現れる。丁度州をまたいだテキソーラの街は、Route 66の中でも最も古い時代に栄えた街だ。少し立ち寄ってみることにしよう。俺はフリーウェイから OLD 66 にハンドルを切った。テキソーラの街は、人の気配も無く静まり返っている。弾丸を打ち込まれた ROAD CLOSED のサイン。置き去りにされたままの車や、寂れた店の建物が哀しげに風に吹かれている。華やかだった頃の面影も残っていない街並みは、空低く立ちこめた雲の下で無言のメッセージを放っていた。 20年代~80年代までの長い間、メインストリートとして使われていた 66 は、こうして時代の影に伝説となった、また1つの顔を投げつけているようだった。この街も道と共に生まれ、道と共に想い出の中へと消えていったのだろう。俺は夢の裏に隠された真実の断片を、まざまざと見せつけられたような気がした